大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)29号 判決 1981年2月04日
貝塚市久保三七六の一
原告
富田房一
右訴訟代理人弁護士
春田健治
同
大江洋一
同
津川博昭
同
赤沢博之
同
松丸正
同
平山正和
同
北雅英
岸和田市土生町二〇三一の一
被告
岸和田税務署長
宮沢洋一
右指定代理人
小林敬
同
志水哲雄
同
太田吉美
同
鈴木淑夫
主文
一 被告が原告に対し昭和五〇年三月一〇日付でした原告の昭和四六年ないし昭和四八年分の各所得税の更正処分及び右各年分の過少申告加算税賦課決定処分(但し、いずれも国税不服審判所長の裁決により一部取消されたのちのもの)をいずれも取消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は非鉄金属再生業を営む者である。
2 原告は昭和四六年ないし昭和四八年分の所得税につき、原告のした確定申告、被告のした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分、訴外国税不服審判所長のした裁決などの経緯及び内容は、別紙1(一)ないし(三)記載のとおりである。
3 被告のした各更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(但し、いずれも裁決により一部取消されたのちのもの。以下本件各処分という。)には、次の違法がある。
(一) 被告は本件所得税の調査に際し原告に調査の事前連絡をせず、調査理由を告知しなかった。
(二) 本件各処分の通知書には理由が付記されていない。
(三) 被告は、本件各処分をするについて原告の所得を過大に認定しない。
4 よつて、原告は本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の主張は争う。ただし、同3(一)の事実のうち被告が原告に対し調査の事前連絡をせず、調査理由を具体的かつ詳細には告知しなかったこと及び同3(二)の事実は認める。
三 被告の主張
1 調査の事前通知などについて
所得税法二三四条一項に基づく質問検査を行うについて、調査の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要個別的具体的な告知は法律上一律の要件とはされていないから、これらを欠いたからといって、本件各処分が違法となるものではない。
2 更正処分の理由付記について
原告はいわゆる白色申告者であるところ、白色申告に対する更正処分をなすにあたり更正通知書に更正の理由を付記することは法律上要求されていないから、理由付記をしなかつた本件各処分に違法はない。
3 総所得金額
原告の各年分の総所得金額は次のとおりであり、そのうち事業所得金額の計算過程は別紙2に、さらに事業所得の収入金額の内訳は別紙3(一)ないし(三)収入金額欄に、同じく収入原価(仕入れ金額)の内訳は別紙4にそれぞれ記載のとおりである。
(一) 昭和四六年分(事業所得のみ)
五〇七万二五四一円
(二) 昭和四七年分(事業所得のみ)
一九六万八三〇七円
(三) 昭和四八年分
総所得金額 一二五万四九五四円
(1) 事業所得金額 一〇四万〇九五四円
(2) 不動産所得金額 二一万四〇〇〇円
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張3の事実のうち、昭和四八年分の不動産所得金額は認め、各年分の事業所得金額はその計算過程を含めすべて争う。事業所得の収入金額の内訳については、<1>ないし<6>を争い、その余は認める。事業所得の収入原価(仕入れ金額)の内訳については、<1>、<2>を争い、その余は認める。なお、他にも収入原価(仕入れ金額)があることは後記主張のとおりである。
2 昭和四六年分について
(一) 原告は昭和四六年には非鉄金属屑を熔解し砲金角丁を製造して売却する営業のみを行い、非鉄金属屑の転売は行わなかつた。
(二)(1) 非鉄金属屑から砲金角丁を作る場合、数量的に一〇%以上目減りする。
(2) 昭和四六年おける砲金角丁の売上げ数量は一四八・九三八トンであるから、これに必要な原材料の量は少なくともこれの一割増である一六三・八三一トンでなければならない。
(3) ところが、昭和四六年における仕入れ金額及び数量は四三四一万二八三三円、一四七・九九七トンであるから、被告主張の仕入れ金額のほかにも右(2)に見合う量の仕入れがあるはずであり、昭和四六年分の収入原価は右四三四一万二八三三円の一割増の四七七五万五四一一円でなければならない。
(三)(1) 砲金角丁一トンを製造するにつき、熔解費(るつぼ、重油、コークス、つかみばし、インゴットケース、リン銅、あか揚、レンガ等)として一万円、その他の経費(電気代、ガソリン代、車の償却費、電話、水道、利息、建物修理費、雑費等)として一万円を必要とする。
(2) よつて、砲金角丁の製造トン数は一四八・九三八トンであるから、二九三万八七六〇円の経費が必要である。
3 昭和四七年分について
(一) 転売分
(1) 森下商店に対する一五三万六七八九円の売上げは銅さいの転売によるものである。
(2) 仕入れ先については、小野商店からの九〇二Kg、一五万七八七五円が明らかになつているのみであり、他の仕入れ先は不明である。
(3) 銅さいの転売による荒利益は通常五ないし一〇%であるから、原告の得た転売による所得は多くとも一〇%の一五万三六七八円である。
(二) 砲金角丁分
原告の右(一)以外の営業はすべて熔解(砲金角丁の製造)であるところ、砲金角丁の売上げは一六六〇万一八一七円、数量五四・六四八トンであるから、前記2と同様に、これに必要な原材料の量は六〇・一一二トンであり、収入原価は一六三〇万六〇〇八円(一四八二万三六四四円×一・一)となり、熔解費、その他の経費は一〇九万二九六〇円(二万円×五四・六四八トン)となる。
4 昭和四八年分について
(一) 転売分
(1) (株)小西商店への転売による売上げ五〇万九二八〇円は、富田合金鋳造所から一四二万九二八〇円で仕入れた電気銅、亜鉛を転売したものである。
(2) 森下商店への砲金紛などの転売による売上げ三四万二八二五円の仕入れ先、額は不明であるが、この種の商品の転売による荒利益率は三%程度であるから、一万〇二八四円が所得となる。
(二) 加工賃分
森下商店からの委託による砲金角丁八・七二トンの加工賃三九万二七一五円については、熔解費、その他の経費として一七万四五四〇円(二万円×八・七二七トン)が必要である。
(三) 砲金角丁分
砲金角丁の売上げは九五〇万八一六三円・二五・四九三トンであるから、前記2と同様に、これに必要な原材量の量は二八・〇四二トンであり、収入原価は八七九万二一九一円(七九九万二九〇一円×一・一)となり、熔解費、その他の経費は五〇万九八六〇円(二万円×二五・四九三トン)となる。
五 原告の反論に対する被告の認否及び再反論
1 原告の反論2ないし4の事実は争う。
2 被告が本訴において主張する一般経費及び特別経費の額は、原告が異議申立時に被告に対し申立て、審査請求段階でも異議なくこれを認めた金額であるから、これに反する本訴における原告の主張は信用できない。
3 非鉄金属屑の取引においては、金属屑に付着している水分、油分、土砂分などの重量を予め見越して仕切数量を減ずるいわゆる鉄引きの習慣があるし、また仕入れ数量の計算自体正確性を欠くから、砲金角丁の売上げ数量を原財料の仕入れ数量を単純に比較することはできない。
4 昭和四七年における森下商店への きいの売上げは、原告の砲金角丁製造によつて発生したものとみるべきである。
第三証拠
一 原告
1 甲第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一ないし三、第五号証の一ないし四、第六号証の一ないし三、第七号証の一、二、第八ないし第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証、第一五号証の一、第一六号証、第一七号証の一、二、第一八ないし第二六号証
2 原告本人
3 乙第三号証、第一二号証、第一五号証の一ないし四、第一六、第一七号証の各一、二の成立は認め、その余の乙号各証の成立はいずれも知らない。
二 被告
1 乙第一号証の一ないし三、第二、第三号証、第四号証の一ないし七、第五号証の一ないし三、第六ないし第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証の一ないし四、第一六、第一七号証の各一、二、第一八号証
2 証人武田義明、同矢野滋之、同金原義憲、同片岡英明
3 甲第一号証、第三号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立はいずれも知らない。
理由
一 処分の存在などについて
請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。
二 調査手続の違法などについて
1 被告が本件所得税の調査に際し、原告に対し調査の事前連絡せず、調査の理由を具体的かつ詳細に告知しなかつたことは当事者間に争いがない。
調査の日時場所の事前通知、調査理由の個別的具体的告知は、所得税法二三四条一項に基づく質問検査権を行使するうえでの法律上一律の要件とされているものはないと解すべきところ、本件においては、調査の事前通知などが必要であつたとの特段の事情も認められないから、この点に関する原告の主張は採用できない。
2 請求原因3(二)の事実は当事者間に争いがない。原告がいわゆる白色申告者であることは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。
青色申告でない白色申告の場合には、更正の通知書に更正の理由附記が要求されていないから、理由附記を欠いたからといつて本件各処分が違法となるものではない。
三 不動産所得
被告の主張3の事実のうち、昭和四八年分の不動産所得金額は当事者間に争いがない。
四 事業所得の収入金額
1 別紙3(一)ないし(三)の事業所得の収入金額の内訳は、<1>ないし<6>を除き、当事者間に争いがない。
2 原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証の一、二、第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、第七号証の二、第一〇号証、第一三号証の一、第一四号証、及び第一五号証の二、証人金原義憲の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一及び第二号証、証人矢野滋之の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四号証の三、五及び第七証、証人片岡英明の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第八号証並びに原告本人尋問の結果によれば、<1>ないし<6>の収入金額はいずれも被告の主張のとおりであること(ただし、<1>に三円の計算間違いがあるが、無視することとする。)、売上げの内容及び売上げ数量は、別紙3(一)ないし(三)の各売上げの内容欄、売上げ数量欄に記載のとおりであることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
3 補足説明
(一) 昭和四六年における林商店への売上げ内容、数量を認めるべき的確な証拠はないけれども、原告本人尋問の結果によれば、原告の昭和四六年における営業内容は砲金角丁の製造販売のみであつたことが認められ、しかも林商店が砲金角丁を取扱つていないとの事情も窺われないから、売上げ内容、数量とも甲第四号証の二(四枚目)の記載を採用すべきである。
(二) 昭和四六年における(株)天野商店に対する売上げ数量については、甲第四号証の二(二枚目)の記載を裏付ける証拠はないけれども、算出の基礎となる売上げ単価(三四〇円又は四〇三円)を不当とすべき事情も認められない以上、右甲号証の記載を採用すべきである。
(三) 昭和四六年における富岡商店に対する売上げ内容、数量を認めるべき的確な証拠はないけれども、右(一)と同様の理由により砲金角丁の売上げと認めるべきであり、売上げ数量については、右売上げが三月であること(乙第二号証)に鑑み、同時における中野金属(株)などに対する売上げ単上げ単価を参酌して(甲第四号証の二)売上げ単価を三五〇円と認め、七八三Kgの売上げ数量と認める。
(四) 昭和四七年における森下商店に対する売上げのうち五月一二日決済分五七万三〇一〇円の売上げ内容を認めるべき的確な証拠はないけれども、昭和四七年中における森下商店への他の売上げはすべて銅さいであるから(乙第四号証の三及び弁論の全趣旨により認められる。)、右五月一二日決算分も銅さいの売上げと認めるべきである。
(五) 甲第六号証の二(二枚目)の昭和四八年五月二三日の中野金属(株)に対する砲金角丁三六六・四Kgの売上げは、銅屑の売買であるから、この分を差引く(同号証の五枚目参照)。
五 収入原価(砲金角丁分を除く)
1 昭和四七年における森下商店に対する銅さい売上げ分について
(一) 原告は右売上げ分の一部を小野商店から仕入れたものである旨主張するけれども、前掲甲第五号証の二(二枚目)によれば、小野商店から仕入れ単価は二七〇円又は一二〇円であり、他方前掲乙第四号証の三によれば、森下商店への売上げ単価は三五円ないし一二一円(五月一二日決済分の売上げ単価は不明である。)であり、さらに仕入れと売上げの前後関係をも考慮すると、小野商店からの仕入れ分は、森下商店へ転売されたものではなく、砲金角丁の製造に使われたものと認められる。
(二) 被告は森下商店への売上げ分は原告の砲金角丁の製造過程で生じたものである旨主張するけれども、原告本人尋問の結果によれば、ノロの発生する割合は砲金角一トンにつき二〇ないし三〇Kgであることが認められ(ノロの発生率が右二ないし三%をこえるものであることを認めるべき証拠はない。)、そうすると、前記四で認定した森下商店への売上げ数量から逆算すると、一六・三二九トンの銅さいが発生するためには、五四四・三トンの砲金角丁を製造しなければならないことになる(一六・三二九トン÷〇・〇三)、ところが、原告の砲金角丁製造トン数は前記四で認定したとおりであり、右五四四・三トンにはるかに及ばないから、森下商店への売上げは、自家発生のものではなく、他所から仕入れたものの転売と認めるべきである(これに副う原告本人尋問の結果は採用することができる。)。
(三) 次に、森下商店への売上げ分に見合う仕入れ先、仕入れ単価を認めるべき証拠はない。よつて、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第二号証の二によれば銅さい転売の荒利益は五ないし一〇%であると認められるから(この認定を左右するに足りる証拠はない。)収入原価は一三八万三一一一円となる(一五三万六七八五円×〇・九)。
2 昭和四八年における森下商店に対する砲金粉などの売上げ分
右売上げ分に見合う仕入れ先、仕入れ単価を認めるべき証拠はないところ、前掲甲第二号証の二によれば砲金粉転売の荒利益は三ないし四%であると認められるから、収入原価は三三万二五四一円となる(三四万二八二五円×〇・九七)。なお、前掲乙第四号証の五によれば、売上げ単価は三一〇円又は三五〇円であると認められ、他方後出の甲第六号証の三(一八、一九枚目)と比較すると、荒利益を三%とするのは低すぎるのではないかとの疑いも残るところではあるが、右甲第六号証の三においても仕入れ単価の変動が大きいから、右の認定を左右するには至らないといわなければならない。
3 昭和四八年における(株)小西商店に対する電気銅、亜鉛の売上げ分
原告の昭和四八年における富田合金鋳造所からの仕入れ金額が一四二万九二八〇円であることは当事者間に争いがなく、前掲甲第一〇号証及び原告本人尋問の結果によれば、右富田合金鋳造所からの仕入れ分が、小西商店への売上げの収入原価であることが認められる。
4 昭和四八年における中野金属(株)に対する並銅の売上げ分
前掲乙第七号証によれば、右売上げ月日は五月二三日、売上げ単価は三二〇円であり、しかも中野金属(株)への他の売上げは砲金角丁であるところ、原告は右五月二三日ころも中野金造(株)から並銅などを仕入れているうえに(後出甲第一二号証により認められる。)中野金属(株)への並銅の売上げの収入原価を認めるに足りる的確な証拠はないから、売上げ額一一万九二四八円と同額を収入原価と認める。
六 収入原価(砲金角丁分)
1 別紙4の収入原価(仕入れ金額)の内訳は、<1>、<2>を除き、当事者間に争いがない。
2 前掲甲第四号証の一、第五号証の一、二、第六号証の一及び第一四号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲四号証の三、第五号証の四、第六号証の三、第七号証の一、第八、第九号証、第一一、第一二号証、第一三号証の二、第一五号証の一、第一六号証、第一七号証の一及び第一八ないし第二四号証、証人矢野滋之の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第四号証の四、六並びに原告本人尋問の結果によれば、別紙4の<1>、<2>は被告主張のとおりの数額であること、別紙4の各仕入れの内容は鉛、砲金紛、ヤスリ紛、銅屑、ラジエーター、ユリミなどであり、すべて砲金角丁の製造の原材料であると認められること、その仕入れ数量の合計額は次のとおりであること、原告の売上げにかかる砲金角丁をすべて自家で製造したことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(ア) 昭和四六年分 一四八、二六五・四Kg
(イ) 昭和四七年分 五七、二五三・五Kg
(ウ) 昭和四八年分 二五、四二二・一Kg(富田合金鋳造所からの仕入れ分が転売されたものであることは前記認定のとおりである。
3 補足説明(とくに、甲第四ないし第六号証との相違点)
(一) 原告の仕入れの内容の中には、明らかに砲金角丁を仕入れた場合(他に砲金粉の仕入れか砲金角丁の仕入れか証拠上紛らわしいものもある)があるが、その仕入れ単価は概して低額であり、仕入れ数量も売上げ数量と比較するときわめて少ないから、そのまま転売したとはみられず、砲金角丁製造の原材料としたとみるほかはない。
(二) 甲一二号証によると、中野金属(株)からの昭和四六年二月一七日付仕入れ数量は五〇七・五Kgと認められる(甲第四号証の三、一六枚目)、
(三) 甲第五号証の四、二三枚目の(有)三協金属商事からの仕入れ数量二八八Kgは昭和四六年分の仕入れである。
(四) 原告が昭和四七年における森下商店に対する収入原価であると主張する小野商店からの銅さいの仕入れ数量三九〇Kgを砲金角丁製造の収入原価とすべきことは前記五1で認定したとおりである。
(五) 甲一二号証によると、中野金属(株)からの昭和四八年一〇月三一日付仕入れのうち、又ラジエター一三四Kgが甲第六号証の三(九枚目)に計上もれである。
4(一) 右1、2で認定した以外に砲金角丁製造にかかる仕入れがあるか否かについて検討すると、前掲甲第二号証の二及び原告本人尋問の結果によれば、銅屑などを熔解して砲金角丁を製造する場合、その歩留りは九〇%程度であること(すなわち、一〇〇Kgの原材料から九〇Kgの砲金角丁ができる。)、そして、右の歩留りのほかに、原材料に付着する水分、油分による目減り、運搬中の減りを考慮しなければならず、それは数%であることが認められる(成立に争いのない甲第三号証によれば、甲第二号証の二の作成者である石田一夫は、砲金角丁などの精錬業者に対し技術指導、アドバイスを行うなど精錬業界の実情に詳しい者であると認められ、他に甲第二号証の二の信用性を左右するに足りる証拠はない。)。
(二) 被告は仕入れ数量の計算が正確でない、さらにいわゆる鉄引きの慣習があるから、実際の仕入れ数量はもつと多い旨主張するけれども、原告本人尋問の結果によれば、仕入れの際の計量は主としてトラックスケールの方法(トラックに荷を積んだまま計算した数値から空車の数値を差引く方法)によりなされていることが認められるところ、右方法では多少の誤差が生ずるであろうことは当然予想されるとしても、実際の仕入れ数量と名目上の仕入れ数量とが五%も一〇%も相違するとの事情も認められないから、前記認定の数値を一応信用できるものと扱わざるをえない。
さらに、鉄引きの慣習については、原告本人尋問の結果によれば、あらかじめ水分などによる目減りを考慮して取引数値を決定してくれる取引先は半数程度であると認められるうえに、前記認定のとおり、鉄引きによる修正をしたとしても、歩留りが九〇%であるというのであるから、後記のように売上げ数量の一割増を仕入れ数量とする方法を採用することの妨げとはならない。
(三) 前記の歩留りなどを考慮すると、砲金角丁の売上げ数量の一割増に当たる数量の原材料が必要であつたと認めることができる。そうすると、昭和四六年における砲金角丁の売上げ数量は一四九、七二一・一Kgであるから、これに必要な原材料は一六四、六九三・二Kgとなる。したがつて、前記2で認定した仕入れのほかにも仕入れないし従来からの在庫があつたものといわなければならないが、この分の仕入れ単価を認めるに足りる証拠はないから、前記2で認定した、判明している仕入れ数量及びその仕入れ金額を基礎として未判明分の仕入れ金額を推定することとする。そうすると、別紙5(一)の算式により昭和四六年分の砲金角丁分の収入原価は四八六九万三九五八円となる。
(四) 右(三)と同様に、昭和四七年において必要な原材料は六〇、一一二・八Kg(五四、六四八Kg×一・一)となり、別紙五(二)の算式により昭和四七年分の砲金角丁分の収入原価は一五六五万四八三〇円となる。
(五) 右(三)と同様に、昭和四八年において必要な原材料は二七、二三六・六Kg(二四、七六〇・五Kg×一・一)となり、別紙五(三)の算式により昭和四八年分の砲金角丁分の収入原価は八五九万三八九七円となる。
七 一般経費、特別経費について
1 前記甲第二号証の二によれば、砲金角丁一トンの製造につき熔解費として一万円、その他の経費として一トンにつき一万円がそれぞれ必要であることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
2 その他の経費は必ずしも砲金角丁の製造トン数に比例して増加するものではないことは、被告主張のとおりであるけれども、前掲甲第三号証によれば、本件係争年中において砲金角丁の製造トン数の一番多い昭和四六年の一四九トン余をみても、原告の営業はきわめて零細というほかなく、一トンにつきその他の経費を一万円とすることが過大であるとは認められない(なお、被告の主張する一般経費、特別経費の額をそのまま採用したとしても、原告の各総所得金額は各申告総所得金額をこえないことになる。)
3 そうすると、経費の額は次のとおりである。
(ア) 昭和四六年 二九九万四四二二円
(二万円×一四九・七二一一トン)
(イ) 昭和四七年 一〇九万二九六〇円
(二万円×五四・六四八トン)
(ウ) 昭和四八年
砲金角丁分 四九万五二一〇円
(二万円×二四・七六〇五トン)
加工賃分 一七万四五四〇円
(二万円×八・七二七トン)
八 まとめ
1 以上をまとめると、別紙6記載のとおりである。したがつて、各年分とも確定申告額をこえる所得があつたことの立証がないことに帰するから、本件各処分のすべてを取消すこととなる。
2 よつて、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれらを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 井深泰夫 裁判官 市川正己)
別表1 課税処分経緯表(一)
課税期間 昭和46年1月1日~昭和46年12月31日
<省略>
課税処分経緯表(二)
課税期間 昭和47年1月1日~昭和47年12月31日
<省略>
課税処分経緯表(三)
課税期間 昭和48年1月1日~昭和48年12月31日
<省略>
別紙3(一) 昭和46年分
<省略>
別表2 事業所得金額の計算過程
<省略>
別紙3(二) 昭和47年分
<省略>
別紙3(三) 昭和48年分
<省略>
<イ> 砲金角丁
<ロ> 並銅
<ハ> 電気銅、亜鉛
<ニ> 砲金紛など
<ホ> 加工賃
別紙5
(一) <省略>
(二) <省略>
(三) <省略>
別紙6
<省略>
別紙4 収入原価(仕入金額)の内訳
<省略>
(注) ※印は原告の審査請求時における主張額と同一額のものである。